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戦争と一人の女 公開直前


はじまりは若松プロだった。

名古屋のシネマスコーレで若松孝二さんを見かけ、弟子入りを直訴し、見送りに行ったプラットホームから入場券で新幹線に飛び乗った僕は五年目の助監督。早大シネ研出身で、就職もせず、何年も自主映画を撮り続け、このままじゃヤバい、プロとしてのスキルを身に着けないとこの先はないと、初めてプロの撮影現場にやってきた片嶋一貴さんは照明助手。――1990年、僕と片嶋さんは若松さんの『我に撃つ用意あり』で出会った。
その後、監督に向かないと悟った僕は、荒井晴彦さんの弟子になり、シナリオライターとなった。片嶋さんは助監督を数本経験した後、あっという間に監督になり、鈴木清順監督作品等のプロデューサーとしても名を馳せるようになった。
その片嶋さんから、製作会社を立ち上げたと連絡があったのは2003年で、僕は手土産代わりに一本の書きかけのシナリオを持って行った。その頃、僕は世の中を覆う空気に窒息しかけていた。911、アフガン空爆、拉致問題による過剰な北朝鮮バッシング、国連決議なきイラク戦争……。こんな世の中、ぶっ壊れちまえばいい。そんな思いをぶつけたシナリオだったが、半分でパタリと手が止まった。逃避行を始めた少年と少女の行きつく先、物語のケツが全く見えないのだ。そんな未完成品をなぜ他人に読ませたのか今もって謎なのだが、片嶋さんはそれを甚く気に入ってくれ、本当に世界を壊す、というアイデアを出してくれた。それから一気だった。世の中への呪詛と挑発に満ちたシナリオが出来上がった。図らずもそこには若松プロの遺伝子が流れていた、ように思う。
しかし、そんなシナリオが簡単に映画になるわけもなく、すっかり諦めかけていた五年後、片嶋さんから電話があった。『アジアの純真』と名づけたそのホンを映画にする、と。その時の片嶋さんの言葉は忘れない。
「俺は自分が監督をやるために会社を作ったんだ。若松さんのように自分の金で自分の好きな映画を作る」
しかししかし、そんな映画が簡単に公開できるわけもなく、公開までに二年の歳月を要した。劇場は決まらず、ネトウヨの総攻撃も受けた。それでも、昨年ようやく公開が決まり、パ・リーグの消化試合ぐらいの観客動員数を目標に、片嶋さんと自腹で全国の映画館を行脚した。我々は我々にできる闘いを闘い抜くしかないのだ。そして、ふと気づく。ああ、これも若松さんのやり方なんだ、と。一人でも多くの人に観てもらうためなのはもちろん、次の映画を作るために、売る。僕たちの中には、確実に若松さんの遺伝子が受け継がれていた。
そして、今年、『アジアの純真』の脚本・監督コンビは、監督・プロデューサーと立場を変え、一本の映画を作った。一度は諦めた監督に再挑戦したのだ。井上が監督するならと、ノーギャラで、プロダクション費も一切取らずに参加してくれた片嶋さん。このことだけは忘れない。アンチ『キャタピラー』を掲げ作った、その戦争映画の初号試写は、『千年の愉楽』でベネチア映画祭から若松さんが帰国した日で、疲れているにも関わらず、若松さんは駆け付けてくれた。『戦争と一人の女』と題されたその映画を、若松さんはボロクソに言って帰って行ったけど、翌日、「昨日は打ち上げに顔出せなくて、悪かったな。時差ボケで疲れて、眠くて眠くて」と電話をくれた。些か手前味噌ではあるけれど、僕はそれを「眠かったけど、映画では寝なかったぞ」という褒め言葉だと受け取った。まさか、まさか、それが最後になるなんて……。

若松さんの葬儀を終えた日、12月7日に発売される『アジアの純真』のDVDの特典映像をチェックするために、若松孝二×片嶋一貴×井上淳一のトークショーを見た。奇しくも若松さんが亡くなるちょうど一年前に行われたそのトークショーでは、弟子二人を従え、意気揚々の若松さんの喋りが予定時間を過ぎても止まらず、映画館に空調を切られ、僕はそのことが気になって集中できなかったのだけれど、改めて見返すと……面白かった。メチャクチャ面白かった。若松さんの作品にもやり方にもいろいろ不満や批判はあったけど、独立プロで、自分の金で、自分のやりたいものをこれだけ作り続けた作家は、日本映画界広しといえども、新藤兼人さんと若松さんの二人しかいない。そのことに裏打ちされた力強い、シンプルな言葉がそこには、あった。メチャクチャ面白かったけど、僕は少し泣いた。

はじまりは若松プロだった。
そして、それはまだ終わってはいない。
終わらせてはならない。

(映画『アジアの純真』のパンフレットより)
※片嶋さんのことを書こうと思ったのですが、これ以上のことは書けないと思い、パンフレットの文章を転載します。決して手を抜いたわけではありません。もちろん、時間がないことはないのですが(汗)。今日はシナリオ講座で創作論講義二本、その間に毎日新聞の取材、その後に、レインボータウンFMの「小山田将のシネマサプリ」http://cinemasuppli.com/ 公開まであと5日。がんばります。



作成: 井上 淳一
以上 フェイスブックより(関矢)
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新潟県長岡市にて《ながおか映画祭》と《長岡インディーズムービーコンペティション》を主催しているコミュニティシネマ長岡のスタッフブログです。

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