2017長岡インディーズムービーコンペティション総評

グランプリ「私が発芽する日」
 予備審査で全員が挙げ、最終審査でも最も点数が高く、ほぼ満場一致でグランプリに決定しました。最終審査で、その前に上映された「鳴く音な添へそ」に比べると、ストーリー運びにあまりにも隙がなく、テレビ的な印象もあったのですが、「お父さんがいい」という意見が多く、ロマネスコのくだりでは笑いがこぼれました。「寂しくなっている自分がいる」あたり、個人的に泣けました。
 いい作品は衣装がいい。それぞれのキャスト、キャラクターにぴったりあった魅力的な洋服であったと思います。シンプルなストーリーを豊かに演出し、短編映画としてまとめあげる力量もすごい。日本映画界に佳作を遺す監督になると期待しています。
 ハンドカメラが気持ちを丁寧に伝える。ラストカット、主人公がフレームから一瞬微妙にはずれる。映画でしか表現できない切ない空気感が強く伝わってきました。プロにはむしろできない素晴らしいカメラワークでした。

準グランプリ「風下の歌、川上の虹」
 アナログとデジタルを行き来しつつ、幸せと不幸せ、親族と他人、男と女、朝日と夕日、シンプルと複雑・・・、その微妙な境界を表現する。確かに、結婚しても幸せでも不幸せでもない。「魂を売ったわけじゃない、まだ少し期待している自分がいるの」全出品作品中、最も奥深く、刺激的な内容でした。
 どんなに頑張っても往年の名作のような素晴らしい映画が撮れるわけではない。映画というものがもう死んでしまっていることをふまえた上での新しい映画という印象を持ちました。
 応募数がもっと多ければ、アート系のくくりとして予備審査で落ちてしまうタイプの作品です。映画ではなく、文学、演劇でいいのではないかという意見もありました。しかし、映画への意識が非常に強い作り手の作品だからこそ、映画という形で映画を見る人に見せるのが一番かと思います。
 美術、照明、演技も手堅く、セリフもいい。賛否両論ある作品でしたが、準グランプリという一般的な賞に決まり、うれしいです。

準グランプリ「水平線の感覚」
 応募作品中、最も感性の豊かな作品でした。タバコ、チェリー味のリップ、チョコレート、キス・・・映像の枠を超えて、嗅覚、味覚、触覚に訴える鋭さ。
 一体どういうシチュエーションなのか? 果たして「あの人」はいたのか? 疑問のまま、よく分からなくても、あるいはよく分からないからこそ、作品の雰囲気に引き込まれてしまう強さがありました。
 女性を魅力的に切り取る技もすごい。
 他の受賞監督は、それぞれ手堅い実力派で、今後なかなかいい作品を生み出すであろうと期待できますが、映画界を覆すようなめちゃめちゃおもしろい作品を生み出し得るのはKim監督と思わせる、感性の強さに出会えました。

監督賞「海へ行くつもりじゃなかった」
 素直に映画に向かっている作品。可もなく不可もなく、好きになれる1本。数年前は、いいんだけれども最終審査には挙げられず落としてきたタイプの作品なのですが、今回のクセのある最終選考の作品の中で、むしろ新鮮な印象が輝きました。クレーンやレールのようなショットも、一時はものすごく多かったのですが、久々に珍しく、映画表現へのまっすぐな憧憬に心温まりました。
 映画でしかありえないシチュエーションではあるのですが、関西弁などいい感じで、連凧やヒロインも魅力的。見終えた後、清々しい、いい映画を見たと素直な気持ちになれる作品でした。

審査員特別賞「寒い夜は、キンに輝く」
「変わるかもしれねぇ未来に俺はかけてぇ」というセリフに心惹かれました。一見少年マンガのような、エンターテイメントの見やすい作品に仕上げながら、まっすぐな思いをぶつけてくる。印象は明るい。
 光の使い方、あて書きのようなシナリオ、細かい演出など技術的な評価も高い。昨年に引き続き安楽監督作品の潔い気持ちよさに魅了されました。
 昨年までの受賞監督は他にも数名出品いただき、いい作品も多かったのですが、今回初めての審査に参加していただいた方々の推しもあり、受賞に至りました。

審査員特別賞「離れても離れてもまだ眠ることを知らない」
 幼な子を世話しながら、夜出かけていることが不自然。肝心のゴミ置き場のおじさんが生かされていない。「愛があれば、何もいらない」というのはあまりにも普遍的すぎて、ひっかからない。とは思ったのですが、お母さん役の女優さんの存在感、主人公の表情の微妙な動きをとらえた演出、編集など素晴らしく、受賞が決まりました。梅酒が飲みたくなるねと話題が弾む一作でした。

男優賞「社畜ゾンビ」
 サラリーマン経験のある審査員には、非常に受けがいい「電話応対」でした。主演の井上さんの身体能力が素晴らしく、それを生かした演出も光っていました。意外にも、学生さんたちにはあまり受けがよくなかったのですが。ゾンビ映画が好きな人にも、そうでない人にも納得の演技力でした。

女優賞「この暁にのぞむ」
 ロケハン、ロケ時間に最もこだわりを感じた紅茶のシーンを大画面で見たい。そんな思いで最終に残した作品です。アフレコに関し様々な意見があり、子どもを産めないと分かったことで精神が蝕まれていくことは実際にはないのではないか、と個人的には思うのですが、平さんの体当たりの演技、アップが多い中でも臆することのない、おしゃれであたたかい雰囲気に何か賞を残せたらと思いました。女優賞に関しては他にも候補が多く、議論を重ねた上での決定でした。


ほか、最終審査に残った2作品
「Lacuna」ロケ地、キャストも多く、制作的には最も苦労したと思われる力作で、映画製作への並々ならぬ強い情熱を感じました。
「鳴く音な添へそ」先生役のロープタイという衣装は、ちょっとないよねという話にもなりましたが…。演出、撮影の完成度、短編映画として作り込み、まとめあげる力は一番でした。



 今回は出品数が81本と少なく、また、応募作品全部鑑賞する予備審査に携わったメンバーが増えたということもあり、例年に比べ、バリエーション豊かな視点で審査を行うことができました。
 予備審査後の打ち合わせ、最終審査で話題にのぼった作品はもっと数多く、語り合うのはものすごく楽しい有意義な時間でした。
 結果的にはもう少し地方発の作品を見いだしたかったところでもあります。
 ご応募ありがとうございました。「長岡インディーズムービーコンペティション」が他者を理解し、何かを結びつける一助であればと願っています。


2017年9月6日 
第19回長岡インディーズムービーコンペティション審査委員長        
井上朗子

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